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登校中の安全を守る "旗振りサモさん"が子どもたちに伝えたいこと

 

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ここは、西東京市・栄小学校の通学路。
「おはよう! いってらっしゃーい!」
交差点に立ち、元気な声で子どもたちを送り出しているのが通称「サモさん」こと笹森俊文さんです。
毎日の旗振りを通して子どもたちや地域の人びとに関わってきたサモさんに、地域防犯パトロール活動(以下、旗振り活動)のこと、子どもたちに伝えたいこと、そして子育てで大切にしてほしいことについて、たっぷりとお聞きしました。

脳梗塞をきっかけに始めた旗振り活動

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――まず、サモさんが旗振り活動を始められたきっかけを教えてください。

実は2017年に脳梗塞に罹ってしまったんです。
幸いに自力歩行できるまで回復したのですが、その後、新型コロナの流行があり、一斉休校で通学路から子どもたちの姿がなくなりました。
その後コロナが明けて、毎朝リハビリのためにダンベルを持って娘を小学校まで送る道すがら、"歩いているだけで幸せだなぁ"としみじみ感じたんですね。
そして、それまではリハビリで自分のために歩いていましたが、これからは、子どもたちのためや地域のためなど、"誰かのために歩けないかなぁ"、と言うことをぼんやりと考えるようになりました。

そんなある日、娘を校門まで送る途中の、車通りの多い横断歩道でダンベルを持ち、"その場かけ足"をしていたら、「ここに立っていただいているだけでも助かります」と校長先生からお声掛けいただいたんです。
毎朝校長先生と会う度に、"そろそろ本格的に立ってみようかな"という思いが強くなって、今にいたります。

――サモさんが立たれている場所の1つが、踏切り手前の交差点。踏切りが閉まり続けると、車がズラーっと並んでしまう場所だそうですね。

横断歩道上に車がたくさん止まってしまうと、その間を子どもたちがよけて歩かなくてはならないんですね。
停車した真上が信号だと、信号を見ていないドライバーさんもいるような場所なので、横断歩道に車が入らないように手前で止めるなど、子どもたちが安全に横断できるようサポートをしています。

わが子を亡くし
悲しむご家族を生みたくない

――荒天の日も横断歩道に立たれてきたのだとか。

僕は2007年に当時2歳半だった子どもをひとり亡くしているんです。
突然の悲しみに、長い間、気持ちを引きずりました。

もし、僕が立つ横断歩道で事故が起きてしまったら、同じ思いをするご家族が生まれてしまいます。
実は旗振りをしながらも、「出しゃばっているんじゃないかな」「正義の味方ぶっているんじゃないのかな」という気持ちが頭の片隅にあったのですが、そんなことを考えるよりも、「無事でよかったね」っていう方を選択したいなと思って、それで特に雨の日など、天候の悪い日にも率先して立つようにしています。

――台風の日や雪の日にも活動されていますが、周囲の反応はいかがでしょうか。

「雨だから気をつけてねー」と声を掛けたら、くるりと振り返って、「サモさんも気をつけるんだよー、雨だからねー」と返してくれるお子さんや、「雨なのにありがとう」と言ってくれたお子さんもいますね。
そういう心のキャッチボールがあるだけでも、今日ここに立ててよかったと思います。

――サモさんが旗振り活動を続ける理由は2つ。交通安全のためと、あいさつをするためだそうです。

あいさつは、死ぬまで使うじゃないですか。
きっと命の最後の瞬間は、多くの人が誰かの手を握りながら「ありがとう」って感謝の気持ちを伝えると思うんですよ。
その相手が家族や大切な人など身近な人ではなくても、お医者さんや看護師さん、救助隊の人であっても。

あいさつは人間関係の構築の土台となる最も基本的なコミュニケーションでありながら、今の社会ではちょっと薄いんじゃないのかなって思いまして、それで"まずはあいさつから"という思いが大きいです。

「いってらっしゃい」の後に
「気をつけて」の声掛けを!

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――サモさんがあいさつをしていた中で、子どもたちも変わっていきました。

道路の反対側を歩いているお子さんがいて、僕が「おはようございます!」と手を振っていました。
1ヵ月くらい続けていると、少しずつリアクションをくれるようになってきたんですよね。その様子を見た校長先生が、「あいさつをくれたあの子は、学校ではほとんどしゃべらないんですよ」と驚かれたことがありましたね。そんなエピソードが2つ3つあります。
そのお子さんがあいさつをするようになった理由は、少しずつ心の扉を開き始めてくれたからなのかなと思います。

大人になってもそうですが、まずは心の扉を開いてもらわないと、真の交流は始まらないので。心の扉を開くきっかけの1つがあいさつなのかな、と感じます。

――今でこそ、大きな笑顔で「いってらっしゃい!」と声掛けし、子どもたちから「サモさん」と親しまれていますが、最初からそうではなかったと言います。

初めは違和感のほうが大きくて、はずかしかったです。
"通報されたらどうしよう"なんて思っていましたね。

そんな気持ちだったからか、ご通行の方々からはなかなかリアクションはもらえませんでした。子ども以上に手強いのが大人でしたね。
それでも子どもがあいさつするようになると大人もあいさつを始めて、そこから少し、地域が一体になった感じはあります。

――サモさんのような方が地域にいてくれるだけで、保護者はとても安心だと思いますが、私たちパパやママが子どもの命を守るために、日常においてできることとはなんでしょう。

「いってらっしゃい」の後に「気をつけてね」と言うことですね。
そうすることで、お子さんも出先で「気をつける」ということが意識に入ってくると思います。
このときに注意していただきたいのが、上から目線で高圧的に言うのではなく、お子さんと同じ目線に立って伝えることだと思います。その方がしっかりとお子さんの心に刻まれますし、「気をつけてね」と言った張本人である保護者には、お子さんが無事に帰ってきてくれただけで、感謝の気持ちがあふれてくると思うんです。

この日常が当然にあるものだと思っている方が大半なのではないでしょうか。
しかし、今という時間はすごく尊いのです。それはやっぱり、病気したり、子どもを亡くしたりして初めて気づくことなのですが、できればそんな苦しみがない時点でわかったほうがいいじゃないですか。
ですから、普段から、お子さんが生まれてきてうれしかった瞬間、ありがとうって思った瞬間、その初めの気持ちを忘れないようにわが子に接していただきたいと思います。
そうやってお子さんに接することが、お子さんの日々の安全にもつながっていくように感じます。

「ハッピーをもらうだけでなく、次につなげたい」という思いが原動力

――2023年3月、娘さんの小学校卒業を機に、いったん旗振り活動を終了したときにサモさんが作ったお手紙が反響を呼びました。

500枚印刷して、300枚ほど配りました。
これを読んだ近所の幼稚園のお子さんから、「おじさんありがとう」と書かれた手紙とか折り紙とか、似顔絵をたくさんもらいました。
お母さんが「多分これ、おじさんのことを描いていると思います」と言って、丸が描かれた絵を手渡してくださったときには、涙が出ちゃいましたね。

今は3ヵ所をローテーションで回っています。3ヵ所に立つと、栄小学校の児童をほぼコンプリートできるんです。最近は子どもたちにも認知されて、黄色いジャンパーを着て自転車に乗っていると、小学生から「あーっ!」と言われることが増えました。

――サモさんは、「ハッピーをもらうだけではなく、次につなげたい」という言葉をとても大切にしています。

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僕は今、天然塩を売っています。
脳梗塞になって食事を気にするようになってからお塩を探していたのですが、なかなかいいお塩がなくて、結果的に沖縄でお塩を作っている方に出会って、特別に作ってもらったんです。そんな流れで生まれたお塩なのですが、これが楽天1位になっちゃったんです。
レビューも1000件以上ついているのですが、みなさんが感謝の気持ちを書いてくださって、幸せな気持ちをいただいています。

例えば、お金を使い切れないくらい持っていたら、寄付したり困っている人にあげたり、誰かのために使おうとすると思うのですが、僕が今、誰かのために使いたいと思っているのが、その"ハートマーク版"です。僕がいただいた感謝と、そこから湧き起こる幸せを、またほかの誰かに伝えていきたいという気持ちでいます。

旗振り活動は、ハートマークを次の世代につないでいくような活動だと思っています。

――最後に、たまちっぷすをお読みのパパやママにメッセージをお願いします。

住宅ローンは早めに組んだ方がいいです。(一同爆笑)
僕は38歳ぐらいでローンを組んでいるので、結構働かなきゃいけないんです。

それから、保護者の方は、自分を親だと思わないことですね。できれば、ちょっと早めに生まれた道先案内人として、お子さんと接するとよいと思います。
イメージ的には、ハワイのツアーコンダクターみたいな感じで、偉ぶらないほうがいいです。
「私は35年前に日本に生まれた者でございます。ここでの生き方をあなたより少し多く知っておりますので、ご案内させていただきますね」といった感覚でお子さんをアシストする。すると、おたがいを尊重できますので、親子間のつながりも、より深まるのではないでしょうか。


サモさんの温かく、まっすぐなお人柄が伝わる今回のインタビュー。
毎朝行う旗振り活動を通してたくさんの子どもたちと関わってきたからこそ、ご本人の大切にされているあいさつや感謝の重みが、ひしひしと伝わってきました。

今という時間の尊さを痛いほど痛感するサモさんの、「お子さんが生まれてきてうれしかった、感謝した、その初めの気持ちを忘れないようにわが子に接していただきたい」というメッセージが、多くのパパやママに届きますように。
そして、日々そうやってわが子に接することが、サモさんの言うように、お子さんの安全にもつながっていくはずです。

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教えてくれた人

笹森俊文さん(通称サモさん)

株式会社ササヤ代表取締役。国産手作り「天然塩あまび」の販売のほか、商品の輸入、カウンセリング業務と、幅広く活動している。西東京市・栄小学校の通学路に立ち、子どもたちを見守る地域防犯パトロール活動を通して、子どもたちにあいさつの大切さを伝えている。

■生活習慣と戦う店ササヤHP
https://www.sasaya3.com
■西東京市Web
https://www.city.nishitokyo.lg.jp/kurasi/iza/bohan/R5kodomomimamori.html

取材・文/羽田朋美(Neem Tree)

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