くらし Share

vol.11 子育てを通じて気づかされた大切なこと

 
...
連載一覧を見る
 

tama-kosodate-vol11-01.jpg

立川駅から徒歩15分。
多摩川のせせらぎと野鳥の声が聞こえ、富士山が一望できるこの家で暮らすのは、中3のふみくん、小5のしゅうくん、パパ、ママ、保護犬のななみちゃんです。

ママは自宅で着付けサロンを主宰。
生徒さんに着付けを教えるほか、「多様性尊重着付師」として、ご家族のセレモニー着付け・撮影などの仕事をしています。ふみくんを産んだからこそ、今の形で仕事をしようと思い、使命感を感じながら活動するママの言葉の端々には、子育てや自分の生き方に悩む多くのお母さんたちにお読みいただきたいメッセージが詰まっていました。

6:30 手帳に書き込み/今日すべきことを整理

tama-kosodate-vol11-02.jpg

5時半に起床し、趣味のガーデニングと朝食準備、お弁当作りをした後は、その日の予定をチェックします。

起床してから家族が起きてくる前の時間は、自分を整える上で大切な時間になっています。
まずは庭に咲いている花に触れることで、今日をスタートするさわやかな心が整います。

次にスケジュールと向き合うことで、心のエンジンがかかります。
午前と午後とをざっくり分けて、今日やるべき優先事項を書き留めてから行動すると、1日を効率よく、そして心地よく過ごせます。

8:00 子どもたち登校/玄関先で見送り

tama-kosodate-vol11-03.jpg

ふみくんとしゅうくんは、それぞれ中学校と小学校へ。

"いってらっしゃい"や"おかえり"のあいさつを大切にしています。
隣の畑の方やご近所の方も子どもたちに温かく声を掛けてくださるので、とてもありがたいです。

つい小言ばかりで衝突してしまうこともあるので、寝る前には『生まれてくれてありがとうね』『お母さんの宝石たち、おやすみ〜』と、笑顔でストレートに言うようにしています。
ふたりともふざけて返事をしたり照れたりしていますね。

過去を振り返ると、後悔する言葉掛けも山ほどしてしまいました。
だからこそ、大きくなった今でも、彼らがとても大切な存在であることをしっかり伝えるようにしています。

9:00 サロンの清掃/お客さまを迎える準備

tama-kosodate-vol11-04.jpg

着付けの仕事を始めたのは、大好きなおばあちゃんを喜ばせたいと思ったからだそう。

おばあちゃん子だったんです。
自分で着た着物姿をおばあちゃんに見せたいと思ったことがきっかけでした。
その後、自分で着付けサロンを始めたのは、長男の子育てが大きく影響しています。

ふみくんが特性のある子だとわかったのは、小2の終わり頃でした。

小さい頃も、元気がいいな、順番が待てないな、ちょっとお友達とのトラブルが多いなとは感じていたのですが、学齢期に入って、ずっと座っているのが難しかったり、4歳下の弟を育てていて違いを感じることが重なったりして、長男の特性に気づいていきました。

検査したところ、言語能力は振り切れるほど高いのに、集中力や記憶、手先の器用さには欠けるなど、発達にでこぼこがあることがわかりました。
ところが当時通っていた小学校は『こういう子がいると困ります』という空気もあり、周囲に相談できる人もいない状況でした。

そこで八王子の支援団体にお話を聞きにいくなどして、発達に特性のあるお子さんや、特性のある子の子育てで悩まれているお母さんお父さんは結構いるんだということを知りました。

その後ママは、市内に発足した発達に特性のある子どもたちや保護者が生きやすい世の中を実現するための活動をしている子育てサポートコミュニティ「キラリっ子ファミリーカフェ」とも出会い、ふみくんに、よりじっくりと向き合うようになります。

一方で、自分のやりたいことをあきらめたくないという思いもありました。そこで長男に寄り添いながら自分の仕事もしていける道を模索し、着付師として起業することを選択しました。

tama-kosodate-vol11-05.jpg

学校に居場所を失いかけていたふみくんが小3になったとき、事態は好転しました。

『ふみくんの学ぶ場所はここだよ』と言ってくれる先生に出会えたんです。
すると長男もいきいきと学校に行くようになって、子どもの生きづらさは環境要因によることが大きいことを実感しました。そこから発達支援ファシリテーターの資格を取得し、その学びを着付けに活かすようにしました。

子どもの七五三の行事が大変というご家庭に向けて、お子さんの"この色しか身につけたくない"というこだわりの気持ちに寄り添ったり、お子さんが落ち着いていられる帯の締め方にしたり、事前にお手紙を書いてスケジュールをお伝えしたりと、一人ひとりのお子さんの個性に合わせて環境を整えるようにしてきました。すると、みなさん笑顔で撮影できるんです。環境でこんなにも変わるんだと思いました。

多様性を尊重するためには、いろいろな節目のセレモニーも多様であらねばならないという考えから、『多様性尊重着付師』を名乗るようになりました。

16:00 子どもたち帰宅/おやつタイム

tama-kosodate-vol11-06.jpg

サロンでの仕事がひと段落した頃、子どもたちが帰宅します。

わが家のおやつはもっぱらおにぎりです。
この時期は、夫と次男が収穫した梅の実で作った梅ジュースといっしょに出してあげます。
以前は自宅と離れたところにサロンがあったのですが、今は自宅サロンにしたことで、子どもたちの帰宅時には家で迎え、サポートできることがありがたいですね。

tama-kosodate-vol11-07.jpg

最近ではよく休日に父と子のキャッチボールを楽しむこともあるファミリー。
親子でキャッチボールする光景は幸せの象徴ですが、ここまでの道は、決して平坦ではありませんでした。

長男が小学校高学年の頃、夫と長男はたびたび衝突していました。
夫も息子の特性を理解しようと努めてくれましたが、基本的な生活動作やコミュニケーションが苦手な息子の特性を受け入れられずにいました。その後、家族で話し合いや環境調整を重ね、今では夫、長男、次男で山へ行くなど、3人の時間を楽しく過ごせるようになりました。

夫とは来年で結婚20年になります。山あり谷ありで美しいことばかりではありませんが、今はお互いのできることをほどよい距離感で協力し合っています。

これまでの子育てを振り返ると、たくさん悩み、たくさん泣き、たくさん笑ったというママ。

壁にぶつかっても必ずそれを乗り越え、みんなが笑顔になる方向へと進んできました。
子育ては幸せだけど、苦しいときもあリますよね。でも、子育ての困難さに負けずに、お母さん自身も、子どもと一緒に自分らしい生き方を探求することを楽しんでもらいたいと思います。
わが家もたくさん悩んだし、 家族でたくさん衝突しましたが、今はこの環境に導いてくれた息子と波乱の子育てに、満足とありがとうの気持ちでいっぱいです。


「長いようで短い人生、これからも家族として出会えたことに感謝して、笑い合える時間を大切に過ごしたいと思っています」 清々しい笑顔でそう語るママの姿は取材後も脳裏にずっと焼き付き、このコメントを思い出すたびに勇気をもらうのでした。

撮影/矢部ひとみ 取材・文/羽田朋美(Neem Tree)

Recommend おすすめ