空の下でつながろう。不登校の子どもの、家でも学校でもない第三の居場所~フリースペースくにたちを訪ねて~ 【前編】
もし、わが子が「学校に行きたくない」と言ったらどうしますか?
文部科学省の調査によると、2021年度の小・中学校における長期欠席者のうち、不登校児童生徒数は244,940人(前年度196,127人)で、9年連続で増加し、過去最多となりました。
「学校に行くことが当たり前」という固定概念が、不登校の親子を苦しめ、罪悪感を抱えることも。
そんな中、2021年6月から「フリースペースくにたち」の活動をはじめた、NPO法人くにたち農園の会が運営する「くにたちはたけんぼ」を訪ねました。
子どもたちの「好き」「やってみたい」の声で作り上げていく居場所
冷たい風が吹く真っ青に晴れた空の下、集まってくる子どもたち。
DIYした遊具に土管、屋根付きのテラス。
窯には火がたかれていて、昼食のパンの準備がはじまります。
言い出しっぺの子はもう飽きて、今は木刀作りに夢中です。
子どもたちに声をかけると、居場所の案内を丁寧にしてくれました。
「屋根に登れるよ!」と、実際に登って見せてくれたり、飼っている動物のことを教えてくれたり、訪ねた私たちに積極的に関わってくれます。
子どもたちは気ままにここに集まってきて、子どもたちが主体となってその日にやってみたいことを決め、それぞれ取り組んでいます。
月曜日から水曜日の日中、小学校低学年~中学生、スタッフの大人まで、学校や年齢の垣根を越えて関わり合いながら思い思いに過ごせる居場所、フリースペースくにたちは、JR南武線谷保駅から徒歩15分、「くにたちはたけんぼ」という広々とした畑の中にあります。
「フリースペースくにたち」の活動の経緯や不登校のお子さんと保護者のサポートなどについて、NPO法人くにたち農園の会の理事長・小野淳さん、副理事長・佐藤有里さん、理事・荒木友梨さんの3人に、お聞きしました。
きっかけはコロナ休校
ーーーフリースペースくにたちの活動はどのように始まりましたか。
佐藤さん
2020年にコロナで学校が休校になったのがきっかけでした。
その時、地域の学校も放課後クラブも休みになってしまっていたんですね。
小野さん
もとは不登校の子を対象にしていたわけではなくて、休校で家にいるしかなかった子どもたちに、ここがあるから、畑に来なよってところから始まりました。
行動が制限され、家だけで人と関わらないで過ごし、育つ、ということを考えたときに、子どもにとっての1日は、大人の1日とは全然意味が違うと思ったことが大きいです。
そこで、畑の開放=フリースペースくにたちを始めました。
佐藤さん
そうしたら、参加者の中に学校に行っていない不登校の子たちが結構いることに気づいたんですよね。
小野さん
学校再開後も、この場所は開いているから、おいでと。
誰も答えを持ってない状況の中で、我々としてもなんかやらないとねって。
それが、今のフリースペースの運営につながっていますね。
子どもたちの変化 ~罪悪感から、自分を取り戻せるまで~
ーーー今日ここでお会いした子どもたちは、みんな元気いっぱいで楽しそうですが、はじめからそうだったのでしょうか
佐藤さん
最初は、国立市外の子たちが多かったのですが、学校に行かないことに罪悪感を抱えていて、帰り道に友達とすれ違ったり、友達の目を気にしたりしている子もいました。
その後、私たちで校長先生にあいさつに行ってフリースペースの説明をしたり、学校でチラシを置かせてもらったりするうちに、フリースペースへの参加日を出席扱いにしてくれる学校も出てきました。そうしていくうちに、子どもたちも「休んでるわけじゃないんだ」と罪悪感や後ろめたさを感じなくなっていったように思います。
小野さん
校長先生がはたけんぼに来てくれることもあって、そうすると子どもたちもとっても喜んでいますね。
学校でもフリースペースでもどちらに行ってもいい、と認められたような感じなのかな。
佐藤さん
ここに通い始めた頃は、友達と話すのも嫌だったり、したいこともなかったりする子がいました。
はじめはほかの友達が遊んでいる様子を見ながら、少しずつ関わりを持ったりしていたのですが、2〜3カ月後、みんなでお相撲をすることになったんです。
それまで友達と関わることがなかった子が、そこで友達と身体をぶつけ合って関わったんです。その姿は、お母さんも涙を流すような出来事でした。
はたけんぼで過ごす日々は、少しずつ、自分を取り戻したり、意欲を取り戻したりする時間になっているようです。
変わっていく友達とのかかわり
ーーーはたけんぼに来ると、友達との関わりも変わるのですね。ほかにも印象的だったお子さんはいますか。
佐藤さん
学校の友達が怖かったけれど、だんだん怖くなくなってきたという男の子もいました。
ここで少人数の友達やスタッフとコミュニケーションを重ねることで、自信をつけながら、少しずつ強くなってきたんだと思います。
トラブルメーカーだった女の子は、はじめの頃、周りのことは気にせず振る舞って、ケンカやトラブル続きでした。
今では困っている子がいたら、声をかけたり助けたりするお姉さんになっています。
はたけんぼを自信や意欲をチャージする「中継地点」に
荒木さん
はたけんぼでは、馬のほかに烏骨鶏も飼っています。
子どもたちの中には、烏骨鶏が好きな子が多いですね。
子どもたちはすぐに烏骨鶏の見分け方が分かって、肩に乗っけたり、抱っこしたりしています。
そこから興味を持って、烏骨鶏について調べたり、さらに深く突き詰めて調べていく子もいます。
私たち大人より子どもたちの方が詳しくて、会話していてとても楽しいです。
こうして私たちに話してアウトプットして、さらに自分のものにしていくんですね。
子どもは、好きなことから学ぶんだなと感じています。
佐藤さん
今は勉強をすることに意欲をなくしていて、外に出たり、学習支援室のような場所にも行けない子たちというのが一定数いると思っています。
どんな子たちでも、まず意欲をもって行きたいと思える場所があるといいですね。
エネルギーがチャージされてやりたいことが出てきたら動けるし、嫌なことがあっても、社会生活を送っていけると思うんです。
はたけんぼを意欲をチャージする中継地点にしてくれたら嬉しいです。
元気になった子どもたちには私たちからいろいろな提案もするし、スキーや乗馬、遠足にも連れ出していきます。
私たちが運営している「森のようちえん 谷保のそらっこ」の「旅する森のようちえん」というプロジェクトで、北海道に行ったことがありました。
この時、フリースペースくにたちに来ている子どもたちも一緒に参加したんです。
親と長期間離れるのは初めてという子が参加しました。
その子が自ら、夏休みの日記を書いて、学校で発表したいと言って、学校に行ったこともありました。
昨年度は、3月の終わりにはなぜか全員が学校に行きだしたんですね。
それぞれが自分で決めて、頑張ってみようかなと思ったのではないかと思います。
もちろん、またここへ戻ってきたり、月に何度か来て、他の日は学校にも通っている子もいます。
はたけんぼに集まる子どもたちの一日
ーーー子どもたちは、日常的にどんな一日を過ごしているのですか?
小野さん
子どもたちとの日々のことは、荒木さんが詳しいですね。
僕の役割は、この場を作ることや、運営していくことだと思っていて、地域の大人の責任として継続的に関わっていきたいと思っています。
子どもたちに、こういう場があって、この場に来てもいいんだよって言うこと、そしてこれを経済的に、持続的にどう経営していくのか考えていくことだと思っています。
荒木さん
朝は9:30くらいから開けています。
一人で自転車できている子、隣町からバスに乗ってきている子、親に途中まで送ってもらっている子、それぞれのペースで集まりだして、子どもたちがその日にやりたいことをみつけて取り組んでいきます。
スタッフの大人は、子どものやりたい事のサポートをする感じです。
今日も、「パンを作りたい!」と言っていた子が材料を持ってきていたので、「じゃぁ作ろうか」と、みんなで作り始めています。
お昼ご飯に間に合うといいな。 お昼ご飯も、みんなで輪になって食べる時もあるし、屋根の上とか、小屋の中とか、お気に入りの場所で食べたりします。
14:00にフリースペースくにたちはクローズして、その後14:30から同じ場所で放課後クラブ「ニコニコ」が始まります。
フリースペースくにたちの子どもたちの中には、そのまま放課後クラブが終わるまでずっとここで過ごす子どももいて、学校帰りの子どもたちと普通に関わりながら遊ぶ様子もあります。
毎日学校に行っている子と、全然行かない子がそれぞれ学校の話をしたり、フリースペースの話をしたり、子どもたち同士の方があまり気にせずにコミュニケーションをとっている様子です。
「傷つけてしまわないかな」などと大人の方が考えすぎなのかもしれない、と気づかせてくれます。
【フリースペースくにたち一日の流れ】
9:30 フリースペースオープン
→それぞれのペースで集まり出して、来た子どもから好きに遊んで今日やりたいことをみつける。
お昼ごはん作りをする子も。
12:00 昼食
→それぞれ好きな場所で食べる。屋根の上で食べる子も。
→時に、親子で高尾山に遠足、川越のしょう油工場へ社会科見学など、はたけんぼの外に出ていくこともある。
14:00 フリースペースクローズ
14:30~17:30 放課後クラブニコニコ
→そのまま放課後クラブニコニコに参加して、学校の子どもたちと気兼ねなく関わる子どもの姿もあるそう。
青空の下、思い思いにその場に集まり、身体を動かし、そこに集う仲間と心を通わせている子どもたちの様子が印象的でした。
家でも学校でもない、子どもたちをありのままで受け入れてくれる居場所が、どれだけ子どもたち自身や、彼らを支える保護者の支えになっているのかと思います。
後編は、子どもが「学校に行きたくない」と言った時、どのように対応すればいいのか?不登校の予兆はあるのか?などについて引き続きお話をお聞きします。
教えてくれた人
NPO法人くにたち農園の会
理事長・小野淳さん(中央)
副理事長・佐藤有里さん(左)
理事・荒木友梨さん(右)
「くにたち農園の会」は、国立市の農業、農地を活かしたまちづくりに取り組む市民活動として2012年にスタート。
コミュニティ農園「くにたちはたけんぼ」の運営にはじまり、2016年にNPO法人化、2017年には田畑とつながる古民家「つちのこや」を開設、今では国立市の地域子育て支援事業となっています。
また大学生と運営する民泊「ゲストハウスここたまや」、畑つきシェアスペース「畑の家」、2020年には認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
「農のある都市」「農が身近にある暮らし」の実現をミッションとして、国立市谷保にある5つの拠点で「0~12歳まで田畑とつながる子育て支援」「多文化共生につながる体験型観光」などに取り組んでいます。
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取材・文/大島一恵 構成/Neem Tree 撮影/矢部ひとみ