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子どもが「学校に行きたくない」と言った時、親や周囲にできることは何か?~フリースペースはたけんぼを訪ねて~【後編】

 

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子どもが「学校に行きたくない」と言った時、親や周囲の大人たちはどのように対応すればいいのでしょうか?
また、子どもが不登校になった時、親はどんなことで悩むのでしょうか?

前編に続き、不登校の子どもの居場所「フリースペースはたけんぼ」を運営する、NPO法人くにたち農園の会の理事長・小野淳さん、副理事長・佐藤有里さん、理事・荒木友梨さんの3人に、不登校の予兆や相談先などについて、引き続きお話をお聞きしました。

学校以外の居場所がないことに悩む保護者

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ーーーフリースペースはたけんぼに通っているお子さんの保護者は、初めはどんなことで悩まれるのでしょうか?

荒木さん
子どもが学校に行かなくなったことよりも、日中を過ごす場所がない、ということで悩んでいる方が多いです。
一人っ子で、同じくらいの子どもと関わらせてあげたいけれど子ども同士で集まれる場所が近所には見つからない。自宅は狭く、親子の距離が近すぎてお互いに息が詰まる。リモートワークで父親が自宅で仕事をしているから家に居にくい。公園に行っても平日の昼間、他人の目が気になって行きづらい。
というように、学校以外に子どもが気軽に行ける学校以外の居場所が見つからない、といった声をよく聞きます。

はたけんぼを訪れる保護者の多くは無理に学校に行かせたいということよりも、居場所の問題を心配しています。
周りの目を気にせずに行ける場所がないから、結果的に家に引きこもってしまい、気持ちもふさぎ込んで暗くなってしまって、何もやりたくないと意欲を失っていると悩む保護者もいます。

「好き」なことから、その子らしさを取り戻す

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ーーー悩んでいる保護者には、どのように声をかけていますか?

荒木さん
まずは、お話をよく聞きます。そして、はたけんぼは、いつでも開いているよって伝えています。
また、ここに通うようになって、意欲が出てきて急に学校に行くようになったり、自分に合う別の場所を見つけて動き出したり、はたけんぼを気に入って元気に通ったりしている子どもたちのエピソードをお話しすることもあります。

不登校になったのは、親が悪いわけでもないし、子どもが悪いわけでもないんですよね。
はたけんぼに来るお子さんは、本来、好奇心旺盛で人懐っこい子が多いです。ところが学校では先生が怖かったり、授業がつまらなかったり、長時間座っているのが嫌、という子もいる。真面目で感度が高くて、繊細な子が多いです。

お子さんは今、元気をなくしているのかもしれませんが、まずはその子らしさを取り戻すことを大事にしましょうと話します。
ここでは何でも自由に目いっぱいできるから、その子の好きなこと、興味のあることを聞いて、お子さんの「好き」に合わせて、一緒に取り組んでいきます。

学校を休ませる勇気をもつこと

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ーーー「学校に行きたくない」と子どもが言い始めた時、親や周囲の初動で肝心なことは何でしょう。

佐藤さん
学校に無理に行かせないことだと思います。
無理に連れていくのではなく、お子さんの様子をよく見て、話を聞くことが大切です。
子どもが親に「学校に行きたくない」と言えることは、本当はすごく良いことだと思います。
子どもは親の気持ちをよく分かっていて、本当は学校に行ってほしいと思っていることを知っているんです。
だから、本当は学校に行きたくないと思っていても言えない子もいるんですよね。

荒木さん
うちの息子は、コロナ休校の頃の入学だったこともあって、学校は行かなくてもいいところ、と思っていた時がありました。
「行きたくない!」とつらそうな顔で言ってきた時は、「休んだら?」と言って、一緒に休んで遊んだり、はたけんぼに来たりしていました。
今は気持ちが満たされたみたいで、学校に通っています。

子どもが「行きたくない」と言えた、その気持ちに寄り添って、無理させないで思い切って充電させる親の勇気も必要なのかなと思いました。
また、状況に応じて親子で話し合うことですね。
例えば、「今日はママも仕事があるから、学校に行ってくれると助かる」とか、学校に行かないならどう過ごそうと思うか、など、お互いの気持ちをそのまま話せるといいですね。

長期的な不登校の対応で大切なこと

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ーーー子どもが学校に行かなくなった時、長期的な対応として大事なことは何でしょうか。

佐藤さん
子どもによって対応は違いますし、保護者の状況によっても対応は変わってくると思います。
お子さんの様子をよく観察して、話を聞いていく中で、お子さん自身がどうしたいと思っているのか、ということに保護者や周囲が寄り添えたらいいと思います。

荒木さん
私たちは子どもたちに、「学校に行った方がいいよ」とは一切言わないのですが、ここで過ごすうちに、自ら行こうかな、と思って学校に戻る子もいます。
はたけんぼが好きで、長く来ている子もいるし、他のフリースペースに行ったり、適応指導教室に行ったりするうちに、どんな場所が自分は好きなのか、合うのか、という自分のスタイルがわかってくるようです。
その中で、その子が次どういう道に進むのが一番いいのか、というのを保護者も子どもも一緒に考えていきます。

佐藤さん
はたけんぼに来ているうちに、うちの子どものゴールは学校に戻ることではないと、価値観が変わっていく保護者も多いです。
学校以外の選択肢で、山村留学に興味をもって動いていく親子もいました。
学校がすべてじゃないという気づきを得て、子どもがどうしたいと思っているのか、という視点で動いていくように変化していきますね。

ここのスタッフにも面白い変化があるんですよ。

荒木さん
はい、実は子どもが長野の学校に通うんです!

息子は今、月に1~2日学校を休む程度ですが、頑張って学校に行った反動で、家では荒れてしまう、ということがありました。
本人が楽しく通える学校ってないかな、と探していたところ、本人もここなら行ってみたい!という学校を見つけました。
子どもの興味から学びを深めていく授業をすごくいいな、と思ったようです。

はたけんぼと長野で二拠点生活をします。
子どもたちを通して私も学んで、またここに持ち帰ってきたいです。
そういった学校や居場所が、どこにでもあって、みんなが選べるといいと思っています。

ーーーわが子が「学校に行きたくない」と言った時、どこに相談すればいいのでしょうか。

佐藤さん
市町村区の教育支援センターに行くと、適応指導教室や不登校特例校、居場所などを紹介してくれると思います。
私たちも、学校にチラシを置かせてもらえるようにお願いに行くなど多くの子どもに居場所の存在を知ってもらうために動いています。

今年の3月から、はたけんぼで焚き火を囲んで教育支援者や学校教育関係機関と連携し、保護者の方が来て相談したり、互いに交流したりする場を作ろうと思っています。
"空の下の相談室"ですね。

不登校になる子どものサインとは?

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ーーー不登校になるお子さんの傾向やサイン、兆候はあるのでしょうか。

荒木さん
真面目な子が多いと思います。
先生の指示にしっかり応えなきゃいけないと思う子の方がプレッシャーを感じやすく、疲れてしまい結果的に不登校になる場合があります。
学校から帰ってきて元気がない、寝られない、食べられない、など身体にサインが出ることもあります。

逆に、学校に行ってほしいという親からの期待を感じている子だと、親には心配させたくないので、なかなか「行きたくない」と言い出せないんですよね。

佐藤さん
子どもも学校が楽しい場所だと思っていたら、行きますよね(笑)
その子にとって楽しくないんですよね。だから行かなくなる。実はすごくシンプルです。

サインっていうと、楽しくなさそうにしていたら、そのうち「行きたくない」と言い始めるかもしれません。
お子さんのSOSに早く気づけるので、何でも言える親子関係は大切だと思います。

荒木さん
ママとパパが子どもの味方でいる、っていう関係性がすごく大事なんじゃないかと思います。
子どもは親が味方していたら頑張れると思います。
その子の自己肯定感を高めるのが大事で、学校に行っても行かなくてもあなたはあなたのままでいいんだよって認めてあげる。

佐藤さん
色々なお子さんがいる中で、学校の先生も多忙で子ども一人一人と向き合う余裕がないような状況になってしまっています。
先生も、もっと子どもと遊んで、楽しむ余裕をもてるようになると、子どもにもいいと思います。

保護者も、先生は大変だからこれ以上求められない、という状況もあると思いますが、それをどうにか改善していくことを保護者も学校と一緒に話して、取り組んでいけるといいと思います。

親子の居場所でつながり、続けていくこと

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小野さん
最初にくにたちはたけんぼを立ち上げた頃、私たちの子どもたちが0歳児や未就学児という年齢でした。
私たち自身がここで子育てしてきたという延長線上に今があって、自然にここに来る子どもの対象年齢も上がってきました。
今後は、より持続性を意識しながら取り組んでいきたいと思っています。

当事者意識で取り組んできているという限界もありましたが、自分の子どもにとっていい場所を作っていきたいというのは本質的なモチベーションだったと思います。
今後は、次の現役子育て世代にバトンタッチをして、この場所を残して継続していくことをNPOとして目指しています。

荒木さん
私も佐藤さんがここで子育て支援をしている時に親子で参加していました。
この場所をすごくいいな、と思って引っ越しをしてきて、つながってきました。
森のようちえんという活動があるのを知って、楽しい体験をたくさんしました。

その後、ここで好きなことしていいよって言ってもらって、手伝わせてもらっているうちにスタッフになりました。
今、フリースペースはたけんぼで一緒に活動をしているスタッフたちは小学校低学年や幼稚園のお子さんを持つお母さんたちです。
そろそろその下の世代のママやパパが入ってきてくれるといいなと思っています。

「はたけんぼに行ったら、元気になれた」

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フリースペースはたけんぼの活動について、年度末にアンケートを実施しています。
アンケートには、保護者からの感謝の声が綴られていました。

はたけんぼに通いだしてから、少しずつ自信と意欲を回復し、表情も生き生きと元気になってきました。
本当に嬉しいです!

子どものやりたい気持ち、やりたくない気持ちに寄り添ってくれるのがすごく良いと感じています。

子ども同士の話し合いにも丁寧に対応してくれて、コミュニケーションスキルの発達や、情緒面でもすごく良いと思います。

屋外で思い切り身体を動かして活動できることに感謝しています。友達との関係も日に日に深まり、心の成長を感じています。

最後の自由メッセージ欄に、お子さん自身が「はたけんぼに行ったら、元気になれて、とてもたのしいです。」と記載していました。

目の前の子どもが今、健やかでここにいること。
それ以上に親がわが子に求めるものはないのではないでしょうか。
安心して通える場所を親子で話し合える関係性と、受け入れる居場所の存在は、子どもの成長の大きな支えになるのだと感じました。


教えてくれた人

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NPO法人くにたち農園の会

理事長・小野淳さん(中央)

副理事長・佐藤有里さん(左)

理事・荒木友梨さん(右)

「くにたち農園の会」は、国立市の農業、農地を活かしたまちづくりに取り組む市民活動として2012年にスタート。
コミュニティ農園「くにたちはたけんぼ」の運営にはじまり、2016年にNPO法人化、2017年には田畑とつながる古民家「つちのこや」を開設、今では国立市の地域子育て支援事業となっています。
また大学生と運営する民泊「ゲストハウスここたまや」、畑つきシェアスペース「畑の家」、2020年には認定こども園「国立富士見台団地 風の子」を開設。
「農のある都市」「農が身近にある暮らし」の実現をミッションとして、国立市谷保にある5つの拠点で「0~12歳まで田畑とつながる子育て支援」「多文化共生につながる体験型観光」などに取り組んでいます。

【関連記事】
▼空の下でつながろう。不登校の子どもの、家でも学校でもない第三の居場所
~フリースペースくにたちを訪ねて~ 【前編】
https://tama-tips.jp/living/blog/32-kunitachi-hatakenbo-01.html

取材・文/大島一恵 構成/Neem Tree 撮影/矢部ひとみ

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