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空手のオリンピック元日本代表に聞いた!習い事を通じた親子のコミュニケーション術

 

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子どもが習い事をするメリットは、運動能力の向上や知識を身につけることだけではありません。
好きなことや、やりたいことへの興味や好奇心を育み、「できた!」という喜びを重ねることで、努力することや継続することの大切さを学ぶことができます。
また、習い事を通じた子どもとの関わりは、親子のコミュニケーションを深めることにもつながります。そのためにも、習い事をしているわが子にはどんな声掛けをし、どんなサポートをしていくとよいのでしょうか。

初めてオリンピックの正式種目として採用された2020年東京大会の空手男子組手67キロ級代表選手で、現在は昭島市の空手道場で子どもたちに指導する佐合尚人(さごう なおと)さんに、ご自身の子ども時代のことも振り返っていただきながら、お話を伺いました。

勝つことを意識したのは中学生から
小学生の頃はただ楽しく!

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――佐合さんが空手を始めたきっかけを教えてください。

小学2年生のとき、一緒に登校していた友達が小学校の体育館で空手を習っていて、「一緒にやってみない?」と誘われたことがきっかけです。もともと体を動かすことが好きでしたが、空手は初めての稽古のときから自分に合うなと思っていました。

――どれくらいのペースで通っていましたか。

小学生の間は週3回ですね。当時は空手のほかにも水泳やバドミントンなど、いろいろなスポーツをやっていたので、空手はその中の1つという感じでした。
低学年の頃は、純粋に空手が楽しいから稽古に行くという感覚でした。高学年になると、当時全日本で活躍していた永木伸児選手に憧れて、永木選手と同じ帝京大学を目指したいと思うようになりました。

競技としての空手と言いますか、勝っていくということを意識し始めたのは中学生の頃ですね。全国で勝ちたいという思いが強くなり、本格的に空手一本に絞ることにしました。中学では道場の先生が部活の時間から練習を見てくれるようになり、空手中心の生活になっていきました。

――やはり、中学生の頃から頭角を現していたのでしょうか。

1、2年生の頃は都の大会でも1回戦や2回戦で敗退し、まったく活躍できませんでした。全国大会に出場できたのは、3年生のときだったんです。
練習に対しての姿勢や絶対に負けたくないという気持ちを大切にしながら毎日稽古に打ち込み、最後にひっくり返せたことはうれしかったです。
互いに切磋琢磨しながら練習に励んできた仲間たちの存在も、とても大きかったですね。

そっと見守り、サポートしてくれた
ご両親の存在

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――空手の道をひた走る佐合さんに、親御さんはどのように関わられたのでしょうか。

中学の頃は夜9時過ぎまで練習していたのですが、送り迎えはいつもしてもらっていましたね。試合があれば必ず動画を撮ってくれて、夕飯のときにはいつも試合映像を見返すことができる環境でした。
両親ともに空手の経験はないので、技術的なことに関して何かアドバイスをすることはありません。その分、精神的なサポートをしてもらっていました。

――負けたときには一緒に寄り添ってくれて、勝ったときには一緒に喜んでくれて......というような関わりでしょうか。

そうですね。食事も栄養のことを考えながら出してくれて、心身ともに支えてくれました。ありがたいことだと思います。
これまで一度も空手を嫌いになることなく続けてこられたのは、両親が空手に打ち込める土壌をつくってくれたことも大きいと思います。

空手を通して得たもの、
親元を離れて培ってきたこと

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――空手と言えば、「礼儀礼節」を重んじ、強くしなやかな精神力を養っていく競技ですが、試合をするうえで、佐合さんが大切にしてきたことはなんでしょう。

誰と対戦するにしても、自分よりも優れている相手だと思って戦うようにしてきました。
おごりや油断につながらないように気持ちを保つことを常に意識し、それを自分の中で言い聞かせるようにしながら試合も運んでいましたね。
下馬評が高い選手と当たるときは、いろいろと策を練りながら、相手の特長を1つ1つ潰していくことを心がけていました。

――オリンピック選手の強靭な精神力の秘密が知りたいです。精神力を高めるために何か意識されたことはありますか。

一番大きかったのは、高校生で親元を離れたことですね。
地元を離れて静岡の高校に行ったのですが、寮生活の中で身の回りのことをすべて自分で行い、人間力というか、精神的な部分はだいぶ鍛えられたと思っています。
そして明確な目標を立てて、その目標を達成するためには何が必要であるかを細かくリストアップしながら、1つ1つ小さな課題をクリアしていく経験を重ねていくこともまた、精神力の向上につながりました。

――アスリートの多くが試合前のルーティンを持つと聞いたことがありますが、佐合さんはいかがでしたか。

ルーティンを持たないことが、僕のルーティンなのかなと思います。それを絶対にやらなくてはいけないという状況になってしまったり、やれなかったときに調子を崩してしまったりするのが嫌なので、そのときに応じた気持ちの作り方をしていました。
試合前に帯をギュッと握ることはしていましたけれど、これはルーティンというよりはクセですね(笑)。
でも、気持ちが引き締まります。

指導者として大切にしているのは
人間的な成長と、褒めて伸ばすこと

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――指導者になろうと思ったのはなぜでしょうか。

オリンピックが終わって日本代表を退いてから、自分が経験したことを子どもたちに伝えていきたいという思いが強くなっていきました。そして、生まれ育った場所で未来の選手を育てたい、地域に根づいた道場をつくりたいという思いから、昭島に道場を構えました。

――指導者として大切にしていることをお聞かせください。

空手をするうえで一番大事なことは、空手の技術だけではなく、人間的成長だと思っています。ですから、そこを念頭に置いて子どもたちと関わっています。あいさつや返事など、人として当たり前のことをまずはしっかりやろうということは、常々伝えていますね。
近頃は競技性に特化しすぎている道場が増え、試合にたくさん出て勝つことを目的にしているところも多いのですが、僕は、小さいうちは楽しんでやることが一番だと思っています。だからこそ、僕の道場はいつでも帰ってこられる場所、長く続けていける場所にしたいと思っていますね。

――試合に勝ったお子さんと負けたお子さん、それぞれにどんな声掛けをされていますか。

勝った子は、たくさん褒めます。しかし、何かしら反省点はあるはずなので、今日は思いきり喜んで、明日からは自分の課題を見つめ直してしっかりやろうと話します。
一方、負けた子に関しては、負けた責任は指導者にあるので、本人を怒ったり責めたりはせず、「次は勝てるようにがんばろう」と励ましながら反省点を1つずつ見つけ出すことをしています。
僕の時代はまだまだ厳しい指導が一般的でしたが、今は長所を見つけ出して褒めて伸ばしていくのが基本だと思っています。そして、良さを伸ばす過程で、しっかりと技術的な指導をしていく、ということを大事にしています。

――練習後は、子どもたちにどう接するのでしょうか。

子どもたちが寄ってきてくれるので、「楽しかった?」などと同じ目線でしゃべっていることが多いですね。気持ちを引き締める場面ではしっかりと指導しつつも、普段は子どもたちの気持ちに寄り添って接する関係性の中で、信頼は生まれてくると思っています。

習い事をがんばる子どもに
親がしてはいけないこと

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――親は、上達を助けたい一心で、子どもに強い言葉をかけてしまうことも。上手に関わる秘訣はありますか。

お子さんが現在打ち込んでいる習い事をご自身もやっていた経験があるのであれば、アドバイスしてあげるのはよいと思います。しかし、経験者でない場合は、技術的なことは先生に任せて、精神的なサポートに回るのがいいですね。また、「今日先生が言っていたことで大事なことは何だった?」などと、聞いてきたことを尋ねるのもおすすめです。その日習ったことを頭の中に残してあげるサポートになります。

――うまくいかなかったときは、どのような声掛けをしてあげるとよいでしょうか。

思うようにできずに落ち込んでいるときや、試合に負けてしまったときには、まず、お子さんの気持ちを聞いてあげてほしいですね。「くやしかった」「ああすればよかった」などと、子ども自身も思っていることはたくさんあると思うので。
つい、ダメ出ししたくなってしまうこともあるかもしれませんが、そこはグッと堪えて、お子さんの思いをしっかりと受け止めてあげてください。そしてその後は、良い方向に進めるようにどうしたらよいかを一緒に話し合えるとよいですね。

――習い事に行きたくないと言ったらどうしたらよいでしょう。

強制的に行かせるのではなくて、自分がやりたいと思ったときに行けばよいと思っています。その代わり、行ったらしっかりやろうねと伝えてあげてください。
そうじゃないと絶対に長続きしないので、お子さんの気持ちに寄り添うことが大切です。

――最後に、たまちっぷす読者のパパママにメッセージをお願いいたします。

一番伝えたいことは、お子さんの挑戦をたくさん応援してあげてほしいということですね。子どもの可能性は本当に無限大です。そして、その可能性を広げられるのは、親御さんなんです。
1つのことをやり続けられた経験は、大人になってからもかけがえのない財産になります。だからこそ、お子さんの意思を大切にしながら1つの柱を作り、とことん突き詰めていってほしいですね。


小学生の頃から空手の稽古に励み、技術と精神力を磨いて2020年にはオリンピック代表の座をつかんだ佐合さん。お話を伺い、勝つことを諦めずに空手を続けてこられた背景には、ご自身のたゆまぬ努力はもちろんのこと、親御さんの適切なサポートがあったことを感じました。
がんばるわが子にはつい、強い口調で叱咤激励しがちですが、それよりも大切なことは、お子さんが自然とがんばり続けられる土壌を作ることだと、佐合さんのお話から伝わりました。
佐合さんの言うように、わが子のチャレンジをたくさん応援して、無限の可能性を広げてあげましょう!

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教えてくれた人

佐合尚人(さごう なおと)さん

1992年、東京都昭島市生まれ。
空手家。
2020年東京オリンピック空手 男子組手代表。
松濤館流の空手道場「悟空塾」にて、礼儀礼節を大切に、空手の技術だけでなく人間的に成長できるような空手の指導を行う。プライベートでは、0歳と2歳の男の子のパパ。

ご興味のある方は、悟空塾(https://gokujuku.com)までお問い合わせください。

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取材・文/羽田朋美(Neem Tree)

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